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山崎隆之八段と豊島将之八段に勝利
第11回朝日杯将棋オープン戦2次予選にて、菅井竜也王位が初戦で山崎隆之八段に、続く2戦目で豊島将之八段に勝利し、本戦トーナメントへの進出を決めました。
本局の棋譜と解説は、朝日杯将棋オープン中継サイトで観ることができます(2017年12月時点)。
中飛車左穴熊ではなく・・・
山崎隆之八段戦
初戦の山崎八段戦で、先手番となった菅井王位は初手▲5六歩から中飛車を採用。
対する山崎八段は、直ちに三間飛車を明示(第1図)。
先手中飛車に対しては石田流がとても有力な作戦のうちのひとつ、というのが現在の通説で、頻出の局面です。これを見て、菅井王位は玉を左に囲いにいきました。
こうなれば中飛車左穴熊で確定、と思いきや、相変わらず独創的な構想を披露してくれました。▲6八銀と上がり、穴熊を放棄します(第2図)。
先手の右辺の金銀の形が一見不満ですが、意図的にそうしており、すなわち第2図の少し前にあえて▲4八銀と上がって後手の△2四飛を誘い、▲3八金としています。玉を固めるのではなく、全体的にバランスよく指そうという構想のようです。とはいえ単に消極的にバランスを取っているわけではなく、恐ろしい狙いも秘めています。
第2図からの△6四歩が緩手。△4四銀〜△3三角を急ぐべきでした。すかさず右銀を5七〜4六と繰り出し、▲5四歩から▲3五銀(第3図)であっという間に先手勝勢になってしまいました(△同銀には▲2二角成があります)。
豊島将之八段戦
続く豊島八段戦で、再び先手となった菅井王位は、再度初手▲5六歩から中飛車を採用。
以下駆け引きの末、豊島八段は角道を止めた三間飛車を採用しました(第4図)。
豊島八段は久保利明王将との王将戦タイトル戦に向けて本命の先手中飛車対策を温存している可能性が高く、本作戦は隠し球といったところでしょうか(先日行われた久保王将との順位戦A級7回戦でも相振り飛車を採用しています)。
さて第4図から、左銀がすでに6八に上がっているので玉を右に囲う普通の相振り飛車になると思いきや、ここでもまさかの構想を披露。▲7八金から玉を左側に囲いにいきました(第5図)。
この後、さらに十数手の陣形整備が行われた後に満を辞して開戦。
中盤で飛車が横に動き合う空中戦の末、二枚飛車で優勢となった菅井王位が豊島八段の猛攻を受け切って勝利しました。
対石田流の中飛車左穴熊の行方
菅井王位は、先日行われた順位戦B級1組、斎藤慎太郎七段戦でもこの中飛車左玉(左穴熊ではなく、▲7八玉・▲6八銀型)を採用し勝利しています(第6図)。
棋譜と解説は、「名人戦棋譜速報」をご覧ください(有料)。
もともと中飛車左穴熊の思想として、
5五の位をとった中飛車にしておくことで、仕掛けを封じながら安定して左辺で穴熊に囲う(より固い▲6六銀型にも組みやすい)
というものがありました。
ところが研究が進み、穴熊に組み上がる前に仕掛ける技術が上がったり、ダイヤモンド美濃構想(参考1図)などで必ずしも固さ勝ちや作戦勝ちが望めない状況になっています。
また、「菅井ノート 相振り編 ひとくちレビュー」で紹介した通り、菅井王位は著書の「菅井ノート 相振り編」で中飛車左穴熊 対 石田流について、
後手の石田流が非常に軽い形なので主導権を握られる可能性が高い
と述べています。
対石田流の中飛車左穴熊に代わる左玉作戦として、今菅井王位が模索中なのがこれらの構想なのでしょう。
おそらく今後も、最善の囲いはひとつには決まりません。石田流側の布陣に合わせて、囲いや右辺の布陣を選択していくのではないでしょうか。
菅井流かまいたち、略して「すがいたち」?!
ところで、5筋位取り+浮き飛車(▲5六飛)+▲7八玉型の布陣として、「かまいたち」という戦法があります(参考2図。囲いはこの後、▲8八金・▲7八金型の穴熊に発展することもあります)。
最近の将棋ファンには、将棋ウォーズの戦法の称号のひとつにあるらしい、程度の認識でしょうか。
かまいたち戦法 - Wikipedia
対振り飛車かまいたち戦法
船囲いに近い構えから、5筋の位を取る。
右銀を▲5六銀 - ▲6五銀と進め、左銀は6六に進める。
▲7七角と出し、右金を6八に囲う。
縦に長い構えであり、相手の囲いの発展を抑えている。
今でもアマチュア全国大会に出場するほどの元奨励会三段の強豪・鈴木英春氏が対振り飛車用に編み出した戦法で、1988年に戦術書が発売されています(対居飛車用の戦法もあります)。
かまいたち戦法は駒が左辺に偏りすぎるため勝ちにくいとされ、廃れてしまいましたが、かまいたち戦法にバランス感覚を取り入れたものが菅井王位の構想と呼べるかもしれません。また山崎八段戦のように、元祖かまいたち戦法が持つ「いつの間にか切られている」ような特徴も併せ持っています。
そこで、この菅井王位の中飛車左玉構想を「菅井流かまいたち」、略して「すがいたち」と呼ぶことにしてみます。菅井王位の顔が、どことなくイタチに似ているような気もします。
今後も「すがいたち」が現れるか、注目です。
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