Hefeweizenの勝局集公開
将棋倶楽部24に参戦中の振り飛車党コンピュータ将棋ソフト、Hefeweizen(別名「白ビール」)。
2019年7月、Hefeweizen(とKristallweizen)開発者の一人であるたまさんが、Hefeweizenが24で勝利した対局の棋譜を集めた棋譜集を公開しました。
24のJKと白ビールの勝局集を作りました。https://t.co/32xJVGL7TV
R2000以上で50手以上指していて、ちゃんと投了しているという条件で抽出し、先手、後手で分けて整理しています。— たま@Kristallweizen(24参戦中) (@mm_Tamachan_mm) July 27, 2019
Hefeweizenが先手番の棋譜と、後手番の棋譜とで分けられているのが便利です。私がダウンロードした時で、先後それぞれ約3500局の棋譜が入っていました。
なお、居飛車党コンピュータ将棋ソフトであるJKishi18gou(人造棋士18号。通称「JK」)の勝局集も同じWebサイトで公開されています。
将棋倶楽部24の棋譜は、24のWebサイトから検索・ダウンロードすることも可能ですが、過去に遡って勝局棋譜が集まっているというのがうれしいところです(ただし7月に公開されているのでそれ以降の棋譜は現時点では入っていません)。Macユーザーの私は、将棋ぶらうざQ(フリーの対局・棋譜管理ソフト)にDB登録して活用しています。
棋譜集の活用方法
棋譜集の活用方法の1つは、自分がテーマとしている局面から強豪棋士がどう指しているかを調べることでしょう。これは「棋譜並べ」の一種と言えます。
私が思い付いたテーマ局面の1つが、先手石田流VS後手4手目△4二玉からの5手目▲7八飛(第1図。無難な定跡は角道を止める▲6六歩)でした。
一般に△8八角成▲同銀△4五角で先手悪い、とされている局面ですが、Hefeweizenは先手番を持って気にせずよく指しています(定跡登録されているからかもしれません)。
この続きも定跡化されており、すなわち△4五角以下▲5八玉△2七角成▲7四歩△同歩▲5五角△3三桂▲7四飛△7三歩(△9二飛もある)▲3四飛△2二銀(第2図。△3二金もある)辺りまでが定跡手順で、先手がわずかに苦しいのではないか、とされています。
実際、△4五角の局面で局面検索してヒットした全18局は、すべて▲5五角までは同一進行。その後ほぼすべてで第2図かその類似形に進行していました。
本記事ではそのうちの1局を紹介します。先手がHefeweizen、後手は七段(レーティング2900点台)の方で、第2図の通りに進行した一局です。
第2図以下の指し手
▲3六歩 △5四歩
▲7七角 △6二銀
▲3八金 △2六馬
▲3五飛 △5三銀
▲2七歩 △3五馬
▲同 歩 (第3図)
馬を閉じ込めて飛車との交換に追い込み、手順に3筋の歩を伸ばしていくのが定跡化された手筋です。このあと、3四まで歩を伸ばして桂を取れる形になりました。
なお、△5四歩に対し▲7七角に引いているところで、△7三歩型ではなく△9二飛型に対しては、左辺への角のにらみを残す▲3七角(▲4六角)も有力のようです。角交換になり飛車が助かった場合は▲8五飛と転換する筋があります。
コンピュータ将棋ソフトが好む形
少し進んで第4図。
先手は桂取りが約束されていますが、それ以外は歩が進んでおらず、どうやって陣形を発展させようかという局面です。
ここからの指し手が、まさにソフト流と言えるのではないでしょうか。
第4図以下の指し手
▲7九銀! △8四歩
▲3三歩成 △同 銀
▲7八銀! (第5図)
桂を取らず、歩を進めず、▲7九銀!そして桂を取った後▲7八銀!
美濃囲い(左美濃)やエルモ囲いしかり、銀の斜め後ろに金がいる形はソフトが好む形ですが、第4図から2手かけてその形に組むとは・・・。歩を突いて陣形を膨らませると飛車を打ち込まれる隙ができるので歩を突かない、という理屈はありますが、この銀の組み換えに勝る他の2手は無い、というHefeweizenの判断はにわかには信じられません。
緩急か、清濁か
そして第5図からは一転して攻めていきます。
第5図以下の指し手
△8五歩
▲7二歩! △同 飛
▲8三桂! △9二飛
▲9一桂成 △同 飛
▲8三角 △6二飛
▲9六歩 (第6図)
▲7二歩から▲8三桂。▲7二歩は上級者らしい手ですが、▲8三桂はいかにも初心者のような一手です。
以下、あれよあれよという間に2枚の飛車が全然活きない形になってしまいました。Hefeweizenの緩急の付いた、いや清濁入り混じった指し回しに後手の七段の方は指し手を乱され心を折られたか、以下幾ばくもなく先手の勝ち。
それにしても、左銀の組み換えをせずに単に桂を取って▲7二歩と打ったら何がまずかったのでしょうか・・・。おそらくそれでも先手良しなのでしょうが、局面を点でしか見ないコンピュータ将棋ソフトのこと、第4図では銀の組み換えが最善手(▲7二歩は次善手)、第5図では▲7二歩が最善手、ただそれだけのことなのでしょう。
5手目▲7八飛でもいける?
ある意味過激すぎるHefeweizenの快勝劇。5手目▲7八飛の他の対局もHefeweizenの見事な勝利でした(勝局集なので当たり前ですが)。
このような棋譜を見ていると、4手目△4二玉に対し5手目▲6六歩ではなく▲7八飛でも十分石田流側が戦えるのではないか、と錯覚を起こしそうです。いや、本当にそうなのかもしれません。アマチュアレベルならば、研究量が多く予備知識が多い方が勝つ局面と言えるでしょう。石田流党はレパートリーの1つに追加してみても良いかもしれません。
参考:評価値グラフ
※棋譜解析エンジン / 評価関数:
YaneuraOu NNUE 4.88 / 振電改
コメント