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久保新手▲7五飛
「久保流急戦」とは、2009年に行われた第34期棋王戦五番勝負第2局、▲久保利明八段 対 △佐藤康光棋王(段位は当時)戦で、久保八段が披露した新手▲7五飛(第1図)、およびその後の一連の構想です。
棋王戦中継サイトで、当時の棋譜と解説を観ることができます(2018年7月時点)。
この新手で、久保八段は第36回升田幸三賞を受賞しました。
「久保流急戦」という呼び名は、久保八段が自身の著書「久保の石田流」の中でこの戦術に対して付けたものです。
奇襲から現代的戦術へと昇華
「奇襲戦法の基礎知識 早石田とは」で紹介した通り、▲4八玉の形で▲7四歩と突く早石田は、以下△7二金(第2図)とガッチリ受けられて無理筋、というのが従来の通説でした。
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奇襲戦法の基礎知識 早石田とは
早石田とは、石田流のオープニングから▲4八玉と上がった直後に▲7四歩と速攻を仕掛けていく戦法です。意外性、決まったときの破壊力、そして相手に正しく応対されると不利になるという特徴から、奇襲戦法に分類されています。
ここで第1図の通り▲7五飛とするのが久保新手。
角交換後に▲7七桂〜▲8五飛で飛車交換をせまるなど、中段飛車で暴れ回るのが狙いのひとつです。
上述の佐藤棋王戦では、第1図以下△4二玉▲7三歩成△同銀▲2二角成△同銀▲7七桂△5四角▲5五角(第3図)と進行しました。
この▲5五角打は、早石田や鬼殺しでもよく出てくる手筋です。難しい局面ですが、元々乱戦に持ち込むのが石田流側の狙いとすれば、石田流ペースといえます。
待ち時間の長いタイトル戦とはいえ、初見でミスのない応手を迫られた佐藤棋王の苦労といったら大変なものだったでしょう。
激戦の末、結果は先手・久保八段の勝利。
久保流急戦は、早石田を奇襲戦法から現代的戦術へと昇華させました。
対策が確立された?
ところがその後、久保新手▲7五飛に対しては平凡に△7四歩と取る方が勝ることがわかりました。
以下、▲4五飛?!(第4図)や▲7四同飛が指されていますが、いずれも後手十分とされ、2010年7月のA級順位戦、久保二冠 対 谷川浩司九段戦(段位は当時。千日手となった1局)以降久保新手▲7五飛は現れていません。
△7四歩以下の変化について、詳しくは「久保の石田流」(久保利明王将 著)や「これで万全! 奇襲破り事典」(本間博六段 著)を参照ください。
久保 利明 毎日コミュニケーションズ 2011-03-24
本当に終わってしまったのか?
本記事のタイトルを「石田流の基礎知識」にするか、「奇襲戦法の基礎知識」にするかは、本当に迷いました。2017年末時点では「奇襲戦法」と言わざるを得ない状況です。
しかし今後さらなる新手が現れ、久保流急戦が復活することを祈念して、「石田流の基礎知識」としました。
ふたたび実戦に華々しく登場することを願っています。
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