リスクの高い4手目△3二飛戦法
第66期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)挑戦者決定トーナメント、▲行方尚史八段 対 △菅井竜也王位戦。
棋譜と詳しい解説は、将棋連盟ライブ中継アプリで観ることができます(2018年5月時点。有料)。
菅井王位にとって2018年度第1局目となる本局で、菅井王位はまさかの4手目△3二飛戦法を採用しました(第1図)。
第1図を見てわかる通り、4手目△3二飛には▲2二角成△同飛▲6五角(8三と4三への角成が同時に受からない)があるため、ハイリスクな一手とされており、プロ棋界でもほとんど前例がありません。
ちなみに第1号局は他ならぬ菅井王位で、2013年1月の順位戦C級2組、▲藤原直哉六段 対 △菅井五段(いずれも当時)戦です。
水面下の研究が表舞台に
本譜は第1図から上述の通りに進み、▲6五角に対し△7四角。
ここで過去の実戦ではすべて▲4三角成でしたが、行方八段は▲7四同角△同歩▲5五角(第2図)の新手を選びました。
新手とはいっても▲7四同角は自然な一手で、水面下で研究されていた構想です。
「アマの知らない マル秘定跡」(村田顕弘六段 著)や「久保&菅井の振り飛車研究」(久保利明王将、菅井王位 著)にも載っています。
強引な仕掛け
▲5五角に対しては手の広いところで、△4四角、△3三角、△7三角、△8二角、△8二銀などが考えられます。菅井王位はこのうち△8二角を選択。
対する先手の一手としては▲2二角成、▲7七角、▲6六角などが考えられますが、行方八段は▲2二角成を選択しました。この変化は、「アマの知らない マル秘定跡」にて以下△2二同銀のあと「△3五歩と伸ばされる手が嫌味で残る」と解説されているものの、その後の指し方が載っていませんでした。本譜がその解答例ともいえる手順なのでしょう。
△2二同銀以下、少し進んで第3図となりました。
なんという強引な仕掛け。まだまだ難しい形勢ですが、事前研究量の差で菅井王位ペースでしょうか。
以降の展開については将棋連盟ライブ中継アプリをご覧ください。結果は菅井王位の快勝でした。
王位戦タイトル戦の予行演習?
夏に王位戦のタイトル戦がありますが、菅井王位は羽生善治竜王の永世7冠達成・国民栄誉賞受賞祝賀会で以下のように語っています。
小さい頃から羽生先生の将棋を勉強してきました。本当に尊敬しています。他の方に失礼かもしれませんが、初防衛戦は羽生先生に挑戦していただきたい思いはあります。羽生先生と一緒にいられるのは最高の時間なんです。また最高の時間を共有させていただきたいです。
その羽生竜王は、この菅井王位の思いに呼応するかのように、今期の王位戦挑戦者決定リーグ紅組で順調に勝ち上がり、挑戦者決定戦への進出を決めました。
羽生竜王は、ここでもドラマのような展開をいともあっさりと成し遂げようとしています。
昨年春に新構想「うっかり三間飛車」を披露し、昨年夏の王位戦タイトル戦にてこのうっかり三間飛車を3局も採用して、羽生三冠(当時)から王位を奪った菅井王位(下記記事参照)。
そしてこの春、ひさびさに4手目△3二飛戦法を採用。これは夏のタイトル戦に向けた予行演習なのか、それとも相手に戦型の的を絞らせないフェイントなのか。王位戦の楽しみが1つ増えました。
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