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ノーマル三間→▲5六銀揺さぶり
第68回NHK杯1回戦、▲杉本和陽四段 対 △斎藤慎太郎七段戦。
本局の棋譜は、NHK杯テレビ将棋トーナメントのWebサイトで観ることができます(2018年6月時点)。
先手番となった杉本四段は、予想通りノーマル三間飛車を採用。そして後手・斎藤七段の居飛車穴熊に対し、▲5六銀の揺さぶりをかけました(第1図)。
先月行われた第28回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC28)にて、居飛穴に対しHoneyWaffleが多用していた作戦でもあります(下記記事参照)。
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本記事では、決勝リーグにおけるHoneyWaffleの対局を振り返ります。二次予選では、対戦相手の角頭歩戦法や居飛車誘導作戦などの変化球がありましたが、決勝リーグでは結果的にすべて真っ向勝負といえる序盤戦でした。
最近の棋書でいえば、「三間飛車新時代」(小倉久史七段、山本博志奨励会三段の共著)で詳しく解説されている形です。
小倉 久史 (著), 山本 博志 (著) 発売日:2017/10/17
第1図以下、▲4五銀から▲3四銀と歩を取る構想を防ぐ手段としては、①△4四銀、②△4四歩、③△5五歩▲4五銀△8四飛、などが挙げられますが、斎藤七段は①△4四銀を選択。
上で紹介したWCSC28でも、HoneyWaffleの▲5六銀に対し後手のコンピュータ将棋ソフト(名人コブラ、Hefeweizen、PAL、大合神クジラちゃん2)はすべて△4四銀と指していることから、これが最善手なのかもしれません。
▲5六銀揺さぶり→石田流
進んで第2図。
途中、△5五歩に対し▲6五銀と上がり、その後5四まで銀が進出しています。また、▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲7六飛と、7筋の歩を手持ちにしながら7八の飛車を7六に味良く移動することに成功しています。
第2図以下、どう手を作っていいか難しい局面ですが、実戦は▲7七角△4四銀▲6六角!△5六歩▲7二歩!△同飛▲5六歩△2四角▲7五飛(第3図)と進行しました。
▲7七角から▲6六角と、細かい動きで角を急所へ。飛車の横効きが止まったことから△5六歩が嫌味な手ですが、裏をかく▲7二歩で△同飛と取らせて一手稼ぎ、じっと▲5六歩。そして△2四角に対し▲7五飛。
△5六歩以降、▲4四角と切って銀を打つ攻めが何度も頭をよぎりますが、いずれも華麗にスルー。局面を急な流れにしない戦術です。その効果で、のちの▲7七桂〜▲8五桂を間に合わせて左桂をさばくことに成功しています。
200手越えの大激戦
その後、杉本四段は攻めの飛車、角、銀もすべてさばいて振り飛車満足の中盤戦へ(第4図)。
ここから斎藤七段が見せた辛抱が、さすが順位戦B級1組在籍を思わせるものでした。杉本四段も負けじと辛抱強く戦い、一進一退の長い長い中盤戦が続きます。
最終盤、杉本四段が王手をかけたところで、斎藤七段の痛恨の受け間違いにより詰みが生じていました(186手目の局面)。ところが短い秒読みの中、杉本四段が詰みを読み切れずに逃してしまい、万事休す。218手におよぶ大激戦の末、斎藤七段の勝ちとなりました。
杉本四段としては惜しくも金星を逃した格好ですが、また素晴らしい熱戦を見せてくれることを期待したいと思います。
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